2009年7月熊本日日新聞「読者のひろば」掲載

精神科障害の光と陰

 

精神科の医師として長年統合失調症に取り組んできたが、自分の老後が気になりだして、最近仕事の重心を認知症に移した。家族会も、今までは統合失調症が中心だったのが認知症の会にも参加するようになり、その違いにショックを受けている。統合失調症の家族会は、若い時に発病した子供を親が看ることが多いので、自ずとメンバーの年齢が高い。「病める子を残して死ぬに死ねない」という断腸の思いがひしひしと伝わり、重い。一方認知症の家族会は、子が親を看ることが多いからか、メンバーも若く元気があり、たいへんな苦労をしている割には明るくて、救われた気分になる。障害者を残して逝く立場と、順送りで看送る立場の違いからだろう。もちろんこういう会に参加する余裕すらなく、障害者と共倒れしそうになっている家族の方が多いのは、重々承知している。

 結局私は、認知症に取り組みながらも、統合失調症のことを考えずにいられない。自殺対策で取り組まれているうつ病や、高齢化社会で取り組まれている認知症は、ある意味スポットが当たっていて羨ましい。その陰で、百人に一人も居るにもかかわらず、統合失調症の患者は、社会的な支援の少なさに喘ぎながら、根強い社会の偏見から逃れながら、ひっそりと暮らすことを余儀なくされている。精神の障害に見舞われない幸運に恵まれた者たちは、この現実をしっかり知っておくべきである。

 

(2009年7月熊本日日新聞「読者のひろば」掲載、2014年1月一部改稿)